ボードレール
シャルル=ピエール・ボードレール(Charles=Pierre Baudelaire)

1821~1867年。フランスの詩人、評論家。象徴派を代表する詩人で、「近代詩の父」と呼ばれるほど大きな影響を後世に及ぼした。代表作に『悪の華』(Les Fleurs du Mal,1857)がある。
ヴァーノン・リーはエッセイにおいてたびたびボードレールに言及している。Laurus Nobilis収録の 'Beauty and Sanity'では、ボードレールの "De la realite grands esprits contempteurs"という詩の一節を引用し、芸術と正気(sanity)の問題を論じている。リーはボードレールをイギリスの詩人スウィンバーンらと同列に扱い、好んではいなかったようである。
Baldwinにおいて、Baldwin(ヴァーノン・リーのマウスピース)は"I consider the personality of Baudelaire, for all his genius, as that of a vicious cad."と述べる。さらに、ボードレールのpessimismの秘密は"rebellious and murderous"であるとしている。
短編'A Wicked Voice'において、語り手は肖像画に描かれた「悪魔の歌声」の持ち主・ザッフィリーノの顔は、スウィンバーンやボードレールを読んだときに夢に出るような顔であるとし、その顔は"that effeminate, fat face of his almost beautiful, with an odd smile, brazen and cruel"と形容されている。
短編「七懐剣の聖母」には、ボードレールの詩「あるマドンナに イスパニア趣味の奉納品」の影響があるとの指摘もある。この詩の最後は以下のようなものである。
かくて最後に、マリアとしてあなたの役を完成し、
愛情と野蛮な行為を 混淆させるため、
眞黒な逸樂よ、怨恨に満ちた首斬り役人の
私は、七つの大罪で、七の鋭利な懐剣を
作るであらう、(阿部良雄 訳)
七つの短剣は通常、聖母の哀しみを表しているが、ボードレールにおいては「七つの大罪」を表している。Sondeep Kandolaはボードレールのデカダンスとスペインは"elegant and decorous stream of classical and neo-classical culture of Italy and Greece"からはずれており、それゆえ、リーはボードレールやスペインが嫌いであったとしている。(Sondeep Kandola, Vernon Lee, P.58.)
『悪の華』のいわゆる「禁断詩編」の一つ、「レスボス」でボードレールは「淫蕩な同性愛の詩人」としてのサッフォーの名を印象付けた。女性の同性愛を淫蕩のイメージと結びつけたこともリーがボードレールを嫌った理由の一つかもしれない。
エッセイ集Laurus Nobilisでは、ボードレールの"De la réalité grands esprits coontempteurs"という詩の一節を引用し、"a fine line"と述べている。
また、美術評論家でもあったボードレールの彫刻論などをヴァーノン・リーのそれと比較してみるのも興味深い。